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くのや歳時記 「母の日」

銀座で70年以上商いに携わり和装と銀座の街をこよなく愛した、くのや7代目当主 菊地泰司が『銀座百点』で1979年から1年間連載した「くのや歳時記」を掲載いたします。季節毎の日本の習慣や当時の銀座の点景を切り取ったエッセイです。

 

「母の日」

五月は、一年中でもいちばん気候の良い季節だ。

「いい陽気になりまして……」という挨拶が、店先でもごく自然に出てくる。

国で決められた休日のもっとも多い月である五月は、ゴールデン・ウィークで始まるが、 私どもにとってありがたい日といえば、五月の第二日曜日の“母の日”にとどめをさす。この日ばかりは、日ごろあまりご縁のない若い方々で、店内が賑わう。

日ごろの母の愛に感謝をささげる“母の日”が制定されたのは、一九一四年の五月九日。ときのアメリカ大統領ウィルソンが、合衆国議会の決議を経て決定したのだ―ということを、アメリカの友人から聞いたことがある。

私どもの店で、この日、お母さま、おばあちゃまへの贈り物にしたいので「リボンをかけ、 カーネーションの花を添えて包装してください」というご注文が目につき出したのは、もう 二十数年前のことになる。当時は、お母さま、おばあちゃまへの贈り物としては、和装の小物というイメージが強かったのだと思う(もちろん、金額的にも妥当な品物が揃っていることもあろうが)。

だが、前号にも少し記したことだが、和服を着ていらした世のお母さまがたが、次第に洋装になられるにつれて、母の日のプレゼントは和装の小物、というイメージは薄らいできた。 ここにも中高年婦人層のファッションの変化、すなわちパンタロン時代の到来をはっきり知ることができる。

それに伴なって、母の日の贈り物が次第に洋品の分野にも広がってきて、和装小物屋の独壇場ではなくなってきた。

いずれ日ごろの感謝を表す形も、贈り物をすることだけでなく、多様化の様相を示しており、家族ぐるみでお食事をするという形になるような気がする。なかでも、ホテルでみんな揃って会食という機会が増えていくと思われることから、ファッションを合む“ホテル文化”も、確実に台頭してくるだろう。

だが、形はどうあれ“母の日”の感謝の気持ちは残ってほしいと思う。いや、五月の第二日曜の一日だけでなく、一年を通して、その気持ちを持っていただきたいと、私は願っている。

 

ファッションが季節に囚われなくなった昨今、「更衣(ころもがえ)」という言葉もあまり聞かれなくなった。

その一方で、全国各地の伝統あるお祭だけは、暦どおりに行われ、ますます盛大になっている。

 

出典 : 銀座くのや七代目 菊地 泰司 「銀座百点」

 

 

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