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歳時記

ひもの効用

"晴れ"と"褻"が着物の世界にもあるとすれば、正月は着物の蔭の立役者=こもの=達にとってもまさに晴れの舞台到来というところである。新しい年を迎えようとする改まった気持をこめて、"あらたまの年"なる季語があることを思えば、正月の晴れ姿は至極当然のことではある のだが・・・・・。

この時季ばかりは日頃忘れかけられ、そして面倒がられ、箪笥預金化しつつある着物が外に出て、あたかも一斉に咲く春の桜の如く美しい着物姿が日本全土に花開く時である。着物が"一旦事ある時"或いは"晴れの舞台"だけの衣服となってしまったのかどうかの話は別にして、この着物姿を形作っている大切な柱が一本一本の"紐"なのである。

古い―と思われている着物姿は実は各々の組織をまことに整然とした手順で一つ一つまとめられ作り上げられたもので、その組織のまとめ役がすべて一本の"紐"なのである。

紐と人との結びつきは物をしばること、継ぐこと、更にはその結び方によって使用権や占有権を示す風習等々の型でひどく古くから存在していると思われるが、兎に角、着物を着上げる迄に八回もの結びが行われているということで、紐の役割の重要さが偲ばれようというものだ。

「腰紐」と「伊達じめ」に始まる着つけは次に着物をまとうとまた「腰紐」と「伊達じめ」である。「腰ぶとん」を当て「帯」をぎゅっと締める。「帯揚」で空間を整え「帯〆」で最後のしめ・・・・・・・めでたしめでたしである。

そしてまだある。羽織の紐だ。外人に羽織の紐を指さされ(羽織についていない時に)「これは何ですか?」と「聞かれた時の返答には一番困る。洋服でいえばさしずめ"ボタン"或いは"ファスナー"に代るものです、とでも答えるべきであろうが、結び紐にはもう少し違う、心にふれる何かがある筈だ・・・・・、などと思うからである。禅問答ではないがやはり"紐"は"ひも"なのであると思いたいからである。

いずれにしても"ひも"の果す役割は仲人的であることは事実のようだ。

元日から七草の間に七福神を巡拝し開運を祈る七福神詣りの一つに隅田川左岸の各社寺を巡るコースがある。向島三囲(みめぐり)神社の恵比須、大黒、弘福寺の布袋、多聞寺の毘沙門、白髯神社の寿老人、百花園内の福祿寿、長命寺の弁天を巡るもので、その昔隅田川の舟遊びに端を発しているという。その三囲神社で七草を植えた可愛らしい長い手のついた丸い竹籠を提げた桃割れ姿のお嬢さんに往き交うとたまらなく江戸の正月を感しる。

せり、なずな、ごぎょう、はこべら、、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七種・・・・・。
春の七種と七福神を結ぶ日本人の心の"ひも"が昔の人の心にはあったような気がする。

出典 : 銀座くのや七代目 菊地 泰司 「銀座百点」